TOPコラム 「世界の舞台で戦うために不可欠なもの」 / 小林一人

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  • 2014.10.02
  • コラム

「世界の舞台で戦うために不可欠なもの」 / 小林一人

 

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今年の9月、軽井沢で世界アマチュアゴルフチーム選手権が開催された。日本で開催されるのは52年ぶりということで、世界のゴルフの趨勢を伺うには絶好の機会。私はその最終日、舞台となった軽井沢72東入山コースの11番ティグラウンド付近に居付き、優勝を争う国々の選手たちのスイングを定点観測していたのだが、なぜか頭に浮かんでいたのは石川遼の姿だった。

 

私のいる場所からは、 11番パー3のティショットはもちろんのこと、15番パー5のティショットも見ることができたのだが、アメリカ、カナダ、スウェーデンといったトップレベルの選手のインパクトは想像以上に強烈で、同時に柔らかさも兼ね備えていた。
 おそらく彼らのドライバーショットの初速は78m/s前後だと思うのだが、これは国内のプロツアーと比べると比較にならないぐらい速い。なにしろキャリーで悠々と300ヤードを超えてくる選手ばかりなのだ。

 

 で、なぜ石川遼が頭に浮かんだかというと、彼はそれが世界の標準になりつつあることを、最も痛切に感じている選手だろうという考えが頭をもたげたのである。軽井沢72は飛距離が絶対的なアドバンテージになるコースなので、アマチュアの選手たちがブンブン振り回していたのは否めない。しかしそれを差し引いても、世界のゴルフはドライバーの初速が75m/s以上ないと話にならないレベルに達しているのである。世界アマには今年の全米アマで準優勝したカナダのコリー・コナーズや、カナディアンオープンで初日トップに立った同じくカナダのテイラー・ペンドリス、2012年の全米オープンで活躍したアメリカのボー・ホスラーなど、将来を嘱望された選手が多数出場していたが、彼らがプロとして表舞台に立つ頃にはよりパワーゴルフの時代になっているということだ。

 

今年メジャー大会に勝ったのは、ローリー・マキロイ(全英オープン、全米プロ)、ババ・ワトソン(マスターズ)、マーティン・カイマー(全米オープン)の3人だが、彼らのボール初速はマキロイ80.4m/s、ワトソン82.0m/s、カイマー76.6m/sだ。これが何を意味するかというと、簡単に言えば、飛ばないとメジャータイトルには無縁だし、今後その傾向にますます拍車がかかるだろう、ということだ。

 

いや、ショートゲームを磨けばその限りではないよ、と反論する向きもあるだろうが、世界のゴルフはロングゲームを重視しているのが現実なのだ。PGAツアーでは「稼いだ打数」という指標でプレーを分析する方法が盛んに行われていて、ティショットや200ヤード以上のアイアンショットの精度を上げる方が、アプローチやパットを磨くよりもスコアを減らすのに貢献することが科学的に証明されているのだ。そのためレンジで4番アイアンを入念に練習する選手が増えているのだが、ポテンシャルが高くないことには、ロングアイアンの精度を上げるのはなかなか難しい。従って、ドライバーで初速75m/s以上のボールを打てることが、今後PGAツアーで戦うための最低限の条件であり、それを目指すことがプロゴルファーに求められる危機管理なのだ。

 

さて、というわけで石川遼のスタッツ(記録)を見てみよう。IMG_0732コラム使用2

 

 初速は76.5m/sだから、メジャーに勝つ条件は満たしている。昨シーズン、125~150ヤードからのパーオン率はツアーで1位だったし、今年も75~100ヤードからの精度は1位と、ショートアイアンに関しては紛れもなくツアートップレベルだ。パッティングでは1メートル以内をけっこう外しているのが多少気になるが、大きく足を引っ張っているような数字は見当たらない。となればやはり、ロングゲームの精度を上げることが、大きくジャンプアップするための条件といえそうだ。

 

 

 そう考えていくと、飛距離にこだわる石川遼の取り組みは正しいと言わざるを得ないのだ。初速73m/s程度で十分活躍できる日本ツアーを主戦場にするならともかく、世界最高峰のツアーに君臨するトップ選手や、これから現れるスター予備軍たちと互角に戦うには、現在の初速をキープしながら精度を上げていくしかないのである。300ヤードを点で狙えるドライバーのみならず、硬いグリーンをキャッチできる高さとスピンを伴ったロングアイアンの弾道を手に入れない限り、メジャータイトルには手が届かないだろう。

 

IMG_0114コラム使用②といっても暴れているのはドライバーだけのようなので、勝負できる日は近いかもしれない。FWではボールを操れるのにもかかわらず、なぜドライバーでそれができないのかを解明できれば、一気にトップレベルで戦えるようになるはずだ。もちろん本人は日々それを探っているのだろうが、「岡目八目」という言葉もあるし、客観的な視点に頼ることも時には必要だろう。見る人が見れば、案外パズルは簡単に解けるような気がしなくもない。ただし日本には慧眼の持ち主は少ないし、少なくとも、自分から名乗り出ては来ないので本当の意味での「コーチ」と出会うのは難しい部分がある。海外でもその状況は変わらないともいえるが、それはスーパースターゆえのジレンマ。今後よい「縁」があることを期待したい。

 
 
 

 幸いなことに、彼はまだ23歳になったばかりだ。ゴルファーとしてのピークは当分続くので時間は十分ある。われわれは当分の間、大河ドラマのように石川遼の成長物語を楽しめることだろう。いずれにせよ、間もなくPGAツアーでの3シーズン目が開幕するが、普通に進化を続けていけば自ずと結果は出るのではないだろうか。なにしろポテンシャルは十分なのだから。

 

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SnapCrab_NoName_2014-7-31_17-55-16_No-00 小林一人 / Kazuto Kobayashi
 
1966年 神奈川県生まれ。
東京大学時代はゴルフ部に所属。
卒業後は広告代理店電通を経てゴルフ専門誌『ゴルフトゥデイ』編集長に就任。
部数を飛躍的に伸ばした後にフリーのゴルフジャーナリストとなる。
スイングに関する膨大な知識と理解力はトッププロやプロコーチから一目置かれ、彼らとのコラボで世の中に発信したレッスン書は大勢のゴルファーに影響を与えている。
近著に『トッププロが打ち明けたゴルフ上達の裏ワザ』(双葉社)。