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  • 2013.05.28
  • コラム

コラム 今岡 涼太/GDO

石川遼

 

PGAツアーに挑戦を始めて4ヶ月余り。世界の一流プレーヤーが集う最高峰の舞台で、石川遼は懐かしい思いを感じていた。「優勝という文字と遠いところでゴルフをやるのは、小学校3年生とか4年生の頃に高学年の子とやったり、中1の時に高学年の子とやったりしたとき・・・、正直それ以来です」。

 

高校生になるとジュニアの試合で優勝できるようになり、プロ転向後は予選落ちもあったもののすぐに優勝争いに絡み始める。「一打の重みというのを、より一層感じるようになりました」と、渡米後の石川は表情を引き締める。一足跳びに頂点まで登り詰めることはできない。一歩ずつ、地道な努力でその差を詰めていき、ふと気付いたときに雲の上に顔を出している。それまでは、自分の足元を見ながら、小さな進歩を積み上げていくしか道は無い。

 

「(2009年に)日本で4勝して賞金王を獲って次の年に出たマスターズですら、今の自分のショット力、技術力では限界があると感じました。良くても予選を下の方で通っているという程度なのかなと・・・」と、石川は振り返る。日本で賞金王を獲る実力があっても、それほどの差が存在するのはなぜなのか?

 

「簡単に言うと、日本よりも絶対に打ってはいけない場所というのがコース上に高い確率で存在するんです。ひとつのショットに対するプレッシャーはこっちの方が高く感じますね」。戦略的なコース設計とタフなセッティング。ラフやバンカーに入れても、ペナルティにならないような甘いコースが舞台ではない。それらの罠を回避するためには、「フックを打ったり、スライスを打ったりということから始まり、アプローチのバリエーションだったり・・・」と、多くの引き出しと高い技術が求められるのだ。「プロになった1年目、プロゴルファーのみんなは簡単にボギーを打たないんだなって思ったのをすごく鮮明に覚えています。その時と似た気持ちが今こっちであって、なんでこんなコースでこんなスコアが出るんだろうってすごく感じます」。太平洋を渡った先には、新たな地平が広がっていた。

 

石川が活路を求めたのは、飛距離ではなかった。正確なドライバーショットとロングアイアンの高い精度、そして「飛ぶ人も飛ばない人も同じレベルで戦える」というアプローチとパッティング。試合の無い週の練習ラウンドでは、ウッドを使わずにわざと2打目に長い距離を残してロングアイアンでグリーンを攻略する。練習場ではバンカーから4Iのフルショットを繰り返す。石川は自分の身の丈にあった攻略法を磨いていった。

 

変化が訪れたのは、5月初旬の「ウェルズファーゴ選手権」でのことだった。ショットはまあまあ、かといって小技が冴えていたわけでもない。しかし、結果は3試合続けての予選通過。「悪いなりに粘れている。底上げが出来ている。今年初めての感覚でした」。ふと顔を上げると、少し景色が変わっていた。

 

翌週の「HPバイロンネルソン選手権」では、今季ベストフィニッシュとなる10位タイ。いくつかのミスパット、アプローチミスがありながらもトップ10に食い込んだ戦いぶりは、成長の余地を感じさせる、ある意味期待の持てる内容だった。

 

遼公式用2©イーグル4©

 

「やっとここ1ヶ月くらい、自分の感覚と予選突破のライン、優勝ラインが合ってきている。ちょっとずつそういう感覚が自分で掴めてきています」。今までは得体の知れない相手に懸命に食らいつこうとしてきた。だが、ようやく相手の姿を確認し、冷静に分析できるところまでたどり着いた。「あとちょっとだと思います」と語る石川が見据えるのは、次なる一歩だ。

 

「あとはビックスコアを出せるかどうか。4日間やっていて、1日はビックスコアが出せれば・・・」。その高みに登るまで、あとどれだけの時間が必要かは誰にも分からない。だが、石川の視線の先、薄い雲の向こうには確かに誇り高き“頂き”が見えている。

 

今岡 涼太/GDO